ファン・エイク
Jan van Eyck (1390-1441)
フランドル  初期フランドル派

ヘントの祭壇画  (両翼が開いた時)
1432

Oil on wood, 350 x 461 cm

シント・バーフ大聖堂

現在も当時のまま、ベルギーのヘントのシント・バーフ大聖堂にある祭壇画。ファン・エイクは油彩技法を完成させた。その輝くばかりの色彩と細密な筆さばきは、奇跡である。

銘文には「誰1人としてしのぐ者のない偉大な画家フーベルト・ファン・エイクが着手し、技術においても彼に続く弟ヤンが、ヨース・フェイトの要請のもとに仕上げた」とある。

今日でもなお、ファン・エイク兄弟のどちらが、どの部分を担当したか、論争がある。

兄のフーベルトは資料がなく、以前はその存在自体を疑問視する説もあった。フーベルトという名前はヘント近辺ではあまりない名前なので、外国生まれではないかという説もある。

絵は表翼と裏翼を合わせると24枚にも及ぶ。



豪華を極める衣装と宝石類は、キリスト教世界の力を表している。

全体を眺めると、時間軸に従っているのが分かる。

アダムとエヴァが人類の始まり。聖母マリアと洗礼者ヨハネが、キリストの生涯を示唆している。その両側に天使たちが音楽とともに、祝福をしている。

下段ではキリスト自身は描かれていなくても、キリストの犠牲と復活が、すべての時を包み込むように描かれている。

カインとアベルの絵も、キリストの死を象徴している。アベルは聖書の中では最初の犠牲者で、キリストの殉教と重ねあわされる。

上段 左から
(上)カインとアベル  (下)アダム

カインとアベル
アダムとエヴァの最初の子供たちはカインとアベルであった。カインは定住農耕者でアベルは遊牧の羊飼いである。

この絵は神への供物を描いている。カインは供物として穀物の束を持ち、アベルは聖餐として子羊を捧げている。

神はアベルの供物を選び、カインの供物は拒否した。

アダム
アダムとエヴァの表情は注目に値する。中央の全能の神に向かっている。「聖母マリアと全能の神」と「アダムとエヴァ」の対比は、全く異次元に住む者たちのようである。

合唱の天使
羽の無い天使は、天上に住む天使を表す。

しかめ面で歌う天使たちに関しては、いろいろな説がある。音のトーンを表しているという説もある。

初期ネーデルランド絵画とイコノグラフィーで有名なパノフスキーは、天使の表情は、神の五つの属性と対応していると書いた。以下に記す。

「神の栄光への賛美」 「神の慈悲への希望」 「神の慈悲に対する信心」 「神の正義への畏怖」 「神の慈悲の前での嘆きと悲しみ、悔い改め」
細部

聖母マリア
聖母マリアは天上の女王として、冠を抱いている。

全能の神
キリストが右手を上げて、指を二本立てているのは、祝福のポーズ。あるいは、審判を下すポーズ。

「審判者キリスト」と「全能の神」のダブル・イメージ

下方の、詳細に描かれた豪華な冠は、北ヨーロッパの特徴。

その冠の下段には、「神秘の子羊」の画中にある聖霊。

洗礼者ヨハネ
洗礼者ヨハネは、毛皮の衣服の上に、緑色のローブをまとっている。

奏楽の天使 
『ヨハネの黙示録」5:11−15より
天使たちとすべての生き物が「神の子羊」を歌い、24人の長老たちが子羊の前にひれ伏した。

エヴァ  Eve

アベルの殺害
神はカインの供物を拒否し、アベルの子羊を選んだ。カインはアベルを殺してしまう。ここでは凶器は驢馬の顎骨である。

アベルの死は、キリストの死の予型とみなされ、カインはユダに譬えられた。


下段 左から
正しき裁き人
キリスト教会の権力を表している。

キリストの騎士 
「正しき裁き人」の後に付いて来るのは、キリストの騎士である。

神秘の子羊と生命の泉 
『ヨハネの黙示録』に書かれている、諸聖徒日(天上諸聖徒と殉教者をまつる日、11月1日)を描いたものとされている。

中央の祭壇上にいるのは、犠牲の子羊である。キリストの犠牲を象徴している。胸から聖なる血が流れ、聖杯に注がれている。天使たちは磔刑の十字架と受難具を持って祭壇を囲んでいる。

さらに、下方には、キリストの復活を象徴する「生命の泉」がある。洗礼杯から水が流れているのは、このシント・バーフ大聖堂にミサの礼拝に来た人々の罪を洗い流すのである。

上部の聖霊から出る光は、集い来る礼拝者たちに注がれている。

右側には12使徒たちで、赤いローブをまとっているのは、殉教者たちである。

右側後方には、処女聖人がシュロの葉を持ち、殉教の勝利を表している。

左側には旧約の時代の異教徒たちが描かれている。キリスト教会の救済を意味している。

左側後方には、迫害にも屈せず信仰も守った証聖人たちが青のローブをまとい集い来ている。

背景は詳細に描かれた街並みで、シント・バーフ大聖堂も描かれている。全体には天上のエルサレムを想起させる。

上段の全能の神と、下段の聖霊の鳩、犠牲の子羊(贖罪者キリスト)で、三位一体を表している。

左右の絵には、この諸聖徒日に集うために、遠くから駆けつけている騎士や巡礼者たちが描かれている。

隠修士たち

巡礼者たち
聖クリストフォロスが、巡礼者たちを率いている。

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