カラヴァッジョ
(1573−1610)
イタリア  バロック 

バッコス c. 1597
Oil on canvas, 37 3/8 x 33 1/2 in;
Uffizi, Florence
祭りの後のバッカス
始めに、「バッカス」の絵を見てみよう。上の絵をクリックして、別のウィンドウで、よく見ていただきたい。
これが、ギリシャ神話のバッカス(ディオニュソス)か?と思うような、絵である。そのあたりにいそうな、男の子のようである。
表情は物憂げで、疲れているようである。まるで祭りの後のバッカスである。豊饒の象徴であるはずの果物は、よく見ると腐っている。豊饒ではなく、衰退である。
狂気と冷静
バッカスはお酒の神様であり、祝祭の主である。祭りの際にお酒に酔って狂気乱舞する人々がいるが、そんな所からディオニュソス的な性質として、陶酔・狂気・激情などがあげられる。(バッカスはローマ神話の名前で、ギリシャ神話ではディオニュソスという)
その反対の性質として挙げられるのが、アポロ的と言われる性質である。冷静で自己抑制の効いた性質である。
人は常に、激情に駆られて生きているわけではない。狂気と冷静は相反するものだが、コインの表と裏のように、互いに重なり合って一つなのである。
狂気の後の衰退
日本のサラリーマンを考えてみると分かりやすい。昼間は冷静に職務をこなしている。夜はお酒に酔って、冷静の中に溜まったストレスを解放している。とても冷静に仕事をしていた人か、と思うような状態である。バッカスは解放の神様でもある。
しかし、解放が行き過ぎると二日酔いになってしまい、解放の意味はなくなり、苦しむことになる。衰退が始まるのである。
破壊
このバッカスは、祭りの後で疲れているのに、さらに我々にお酒を進めている。その表情はまるで、我々を無気力な衰退から、破壊へと導いているようにも思える。まるで、表情を変えない殺人鬼のようである。
ギリシャ悲劇
バッカスに関する残酷な、ギリシャ悲劇がある。エウリピデースの『バッコスの信女たち』である。
テーバイの王、ペンテウスが、バッコスの教えの虜になった母親に、狂気と陶酔の祭りの中殺される、という悲劇である。母親が自分の息子を殺してしまったことに気づくのは、祭りの後、しらふになった時である。
ギリシャ人はバッコスの破壊性に気づいていたのである。
カラヴァジョが描いたバッカスは、ギリシャ神話の神様というよりは、我々の中に潜む狂気である。
カラヴァジョの生涯
カラヴァジョ自身、かなりな乱暴者で、変わり者で有名であった。1606年には、殺人を犯している。ローマから追放され、教皇の恩赦を待ちながら、ナポリ、マルタ、シシリアと流れ、マラリアで亡くなっている。
このバッカスはまるでカラヴァジョ自信のようでもある。狂気の後の焦燥、それは破壊への誘いでもある。

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